抄録集
基調講演
演題 小児期腫瘍に対する処置を考える
演者 砂川 元(琉球大学大学院医学研究科顎顔面口腔機能再建学講座)
  小児期は、成長発達の旺盛な時期であり、顎顔面領域に発生する小児期腫瘍の病態も多様である。それ故に、顔貌の変形等や口腔機能等を含めた様々な後遺症の残存する可能性が高いために、治療法の選択に苦慮することが多い。そこで今回、小児期に発生した腫瘍性病変(腫瘍類似疾患も含む)について、主に外科的処置に関しての検討結果を報告する。
対象は1989年から2008年の間、当科で腫瘍性病変と診断された122例である。性別では男児57名、女児65名 その比は1:14であった。疾患別にみると、硬組織では歯牙腫25例が最も多く、次いでエナメル上皮腫11例、歯原性角化嚢胞10例であった。軟組織では血管腫8例、リンパ管腫5例、線維腫5例であった。
硬組織腫瘍の処置のついては、主として全摘出が多く認められたが、歯牙を温存する場合は開窓療法が適応される症例が多く、全摘出後に顎骨再建した症例は認められなかった。 軟組織の処置については、ほとんどの症例で全摘出が施行されていたが、乳幼児期においては経過観察や広範囲に腫瘍が認められる場合は減量療法が施行されていた。
小児期腫瘍の中、顎骨に発生する腫瘍に対しては、特に歯牙や顎骨などを温存することにより、患者のQOLの低下を最小限に止めるように努めることが必要である。今回は、審美性と機能温存が可能となり得る開窓療法の適応と限界についても言及する予定である。
教育講演
演題 子どもたちが歯科に求める専門性
演者 香西 克之(広島大学大学院医歯薬学総合研究科小児歯科学講座教授)
   日本では少子高齢化時代に突入し歯科医療も変化を求められてきています。小児領域においても口腔疾患の罹患状態の推移に変化を生じてきており、対応も従来と同じというわけにはいかなくなってきました。進歩の著しい歯科医療のなかにあって小児歯科医療は他の診療科と同様に、診療への考え方が以前とはかなり変化しています。
 このような状況のなかで、特に地域歯科医療においては、ひとりの歯科医師がその地域の全ての年齢層の患者を診なくてはなりません。しかし小児の齲蝕罹患率の著明な低下のためか最近、小児を診る経験に乏しい歯科医師が増えているように思われます。一方、厚生労働省のH20年調査では、小児歯科標榜は38,682か所(57.1%,H14年比12%増)、小児歯科を担当する歯科医師は41,462 名(42.9%,H14年比10%増)と矯正歯科や口腔外科と比較しても著しく増加しています。幅広く患者を診ようという意欲は感じられますが,この医療実態が小児の歯科医療の質の低下に結びつくようなことがあってはなりません。ちなみに小児歯科を専従とする、いわゆる小児歯科医数はH14年1,850名(2.0%),H20年1,865名(1.9%)と横ばい状態です。歯科医療はあらゆる叡智を結集して、将来を担う小児に健全な口腔の成長と維持を保障しなければなりません。
 今回は、成長期にある小児への歯科医療への考え方を今一度、見直すとともにどのように対処すべきかを小児歯科専門医の立場から述べ、子どもたちが歯科に求めているものをみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
特別講演
演題 正中埋伏過剰歯の処置について
演者 吉岡 秀郎(大阪労災病院歯科口腔外科部長)
   過剰歯は日常臨床においてしばしば遭遇する疾患である。過剰歯の出現頻度は0.6%-2%で、1歯もしくは2歯以上の過剰歯を観察できることもある。その多くは学童期の上顎前歯部に発生し、後継永久歯の萌出の妨げや正中離開などの歯列不正の原因になると言われている。症例保護者から性急に過剰歯への対応を求められ、苦慮する症例も少なくない。今回、上顎前歯部過剰歯を有する症例を詳細に検討し、治療方針や適切な治療時期を考察する目的に実態調査を行ったのでその概要について報告する。
【対象】2001年1月から2009年12月までの10年間、大阪労災病院歯科口腔外科を受診した上顎前歯部の過剰歯を有する症例、150例について①年齢分布②男女比③過剰歯の部位④過剰歯の位置⑤受診動機⑥治療内容⑦手術の合併症など
【結果】対象症例は150例・189歯で、男性111例、女性39例であった。平均受診年齢は9.9歳であった。1歯の過剰歯は111例で、2歯有するのは39例で、3歯以上を有する症例はなかった。埋伏過剰歯は170歯で89.9%、萌出ないしは半萌出状態の過剰歯は19歯で10%であった。治療を施術した症例は108例(72%)であった。未治療の42例の内訳は抜歯拒否3例、日帰り全身麻酔可能施設への転院8例、31例は経過観察中の未来院であるった。抜歯時に粘膜切開を加えたのが、口蓋側81例、歯槽頂~唇側14例で、単純抜歯が15例であった(同一症例で2回に分けて抜歯を行っているのが2例含む)。
市民フォーラム
演題 子供の口の怪我・病気 -子どもの口にこんなことが起こったら-
演者 榎本明史(近畿大学医学部附属病院歯科口腔外科医学部講師)
   子どもが安全で健康な生活を送ることはとても重要なことです。交通事故や水の事故などと同様に、口の怪我についても子どもに事故が起こらないようにするためにできることがあります。私たち保護者が口の怪我について学ぶことで、その予防を行うことができ、怪我をした時にも適切に対応することができます。もちろん子どもは、小さな怪我をして痛い思いを何回もしながら、しだいに自分で怪我をしないように気をつけるようになっていきますので、家庭内の応急処置で済み、傷のあとを残さない程度の軽いけがや事故はやむをえないかもしれませんが、医療機関の受診が必要となる事態は、極力避けたいものです。
また、怪我以外の口の病気についても、保護者の方がいったいどうしたらいいのかわからず不安に思うであろうものがあります。一般的な虫歯のほかに、突然の急性細菌感染による炎症やウイルス感染症、歯並びの問題などいろいろとあります。
私たち歯科口腔外科を専門としている者にとって、子供の口の怪我や病気は、非常によく遭遇するものです。ほとんどが外来処置で対応できる軽傷例で、重傷例はまれでありますが、そういった怪我や病気も、保護者にとって非常に心のおおきな負担となることは事実です。
今回は、子供の口の怪我に加え、保護者の方が、いったいどうしたらいいのかわからず不安に思うであろう子供の口の病気をいくつか取り上げて説明します。
ランチョンセミナー(A会場)
演題 歯科医師の将来設計とリスク管理について
-先生の老後は本当に大丈夫ですか-
演者 江越 誠(株式会社ワイ・イー・アール)
   国民医療費の増加や社会保障制度の不安要素が年々増加し、歯科医師の先生方を取り巻く環境が日々厳しくなっています。その中で先生方も医業従事者でありつつ経営者でなければならなくなりました。
 このような環境の中、各先生方は必ず来る老後の資金、医院維持・発展の為の設備投資資金、お子様の学資資金などを考えながら様々なリスク管理をしていかなくてはいけなくなりました。
 老後資金や日々の生活資金の確保は、歯科医師会の年金制度への加入の有無や各先生方の環境により違うと思います。
 ただ、開業初期・充実期・成熟期各ステージでの先生方の収入・支出・夢・問題点が違う中、本当にその都度リスク管理を見直し、将来設計をされているでしょうか?年金制度も不安になり金融機関の情勢や経済も近年急速に変化している中、本当の意味のリスク管理と将来設計を確認すべき時代になっていると思います。
 その中で私は9年間のべ約300件以上のコンサルティングの経験から得た知識や実体験のお話を踏まえた上で、先生方に民間の生命保険等を上手に活用してリスク管理をし、将来設計をする方法をわかりやすくご説明し、先生方に現状のご確認と明るく安心な将来設計の気づきを感じていただけるセミナーになればと思っています。
ランチョンセミナー(B会場)
演題 患者さんのための安らげる空間を
―今求められる、インテリア医学の実践―
演者 乾 真理子(ラピス株式会社 取締役)
  “インテリア”というと、建築や住宅の室内装飾……と一般的には理解されており、外見上の美しさや、センスの良さなどが大切だと思われがちです。しかし、今やその範囲を超えて、もっと人の身体や心に直接的に影響を与えることが明らかとなってきました。
人はリラックスして副交感神経が優位になると、免疫が活性化し、自然治癒力が高まります。そう考えると、病を治す病院やクリニックこそ、患者さんがゆったりくつろげる空間づくりを心がけたいものです。色や香り、音楽など五感に働きかける手法をインテリアに取り入れ、心地よい空間をつくり上げることで、患者さんの自己治癒力を引き出すーーこれが私の提唱する「インテリア医学」の考え方です。インテリア医学で大切なことは、人間的な尺度・感覚にフィットする「ヒューマンスケール」の考え方や、院内の隅々にまで見配りした安全性・快適性の追求です。
そこで、診察室や病棟で患者さんに心地よく過ごして頂く基本として提唱していますのが「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」の実践です。環境を整えたうえで、人の五感に働きかけるインテリアを取り入れることがより効果的です。今回のセミナーでは、少しでもお役立て頂けるよう、大金をかけずちょっとした創意工夫、物の配し方のポイントをご紹介出来ればと思っております。
シンポジウムI-1
演題 新たな口腔保健への対応
演者 神原 正樹(大阪歯科大学口腔衛生学講座)
  12歳児のDMFTが1本を示し、高齢者の8020達成者が増加しているように、歯科疾患構造が変化してきていることに、歯科医療はどのように対応するかが、歯科界が社会から問われている緊急の課題である。齲蝕、歯周疾患、咬合という現在の歯科医療の対象疾患の改善は、健康な口腔を保有する人が増加していることを意味し、Disease-Oriented DentistryからOral Health-Oriented Dentistryへの転換を示唆している。このことは、予防を含めた歯科医療から、口の健康を目指し、口の健康から歯科医療を考える歯科医療への変化であり、その目標、理論、技術は大きく異なる。まず必要なことは、10年先、20年先の歯科医療をどのようにイメージできるか、また、その理論構築ができるかである。現在の疲弊している歯科界をブレイクスルーする鍵は、この転換にあり、教育、研究、臨床を、産官学歯科医師会が共同してこれに取り組むことが必要である。
シンポジウムI-2
演題 CTスキャンを用いたインプラント治療症例の拡大
演者 河村 達也(大阪市中央区開業)
  現在、オールセラミックにおけるCAD/CAM技術や歯内療法における歯科用CTの活用など、いわゆるデジタルデンティストリーと呼ばれる時代がやってきている。
インプラントの分野においても歯科用CTの導入により、これまで既存のX線画像のみでは読影が困難であった部位の詳細かつ正確な把握が可能となった。これにより飛躍的に診断精度の向上がもたらされ、インプラント治療の適応範囲が広がった。
特に上顎臼歯部のインプラント埋入においては、高度の骨吸収と解剖学的制約(上顎洞の存在)によってインプラント治療が不可能であるとみなされがちであるが、歯科用CTを術前診断に活用することで上顎洞へのより正確なアプローチが可能となり、上顎洞底挙上術(サイナスリフト)等の骨増生術の予知性の向上に繋がった。
本講演では上顎臼歯部におけるインプラント治療例やトラブル症例について紹介することでインプラント治療における歯科用CTの有用性について述べる。
シンポジウムI-3
演題 睡眠時無呼吸症候群への対応
演者 佐々生 康宏(重症心身障害児者施設 四天王寺和らぎ苑 歯科)
   睡眠時無呼吸症候群(SAS)という病名は,広く国民に知られるようになりました.成人のSASでは日中傾眠による社会事故の発生や生活習慣病の悪化因子となることが問題とされていますが、小児では集中力の低下、学習能力の低下、成長の遅れなどが問題となっています。また、重症心身障害児者の中には,睡眠時のみならず覚醒時でもいびきや無呼吸が出現し,閉塞型SASと同様のメカニズムでいわゆる上気道閉塞性呼吸障害を発症し、昼夜逆転や嚥下障害などの症状を呈する場合があります。これらの症状に対して、歯科でも対応が求められる場合がありますが、ごく一部の歯科でしか対応できていないのが現状です。SASが認知されるようになった世の中、小児から成人まで、歯科としてどのように対応していくべきか、現状と未来を見据えながら考えてみたいと思います。
シンポジウムI-4
演題 先進国における現在の歯科事情とこれからの展望
―日本の歯科医療に問われるもの―
演者 横手 優介(HIC兵庫インプラントセンター ヨコテデンタルクリニック 理事長)
   現在、インプラント治療などの先端治療が多く一般歯科医療に取り込まれるようになり難症例においても機能回復はもとより、審美的な観点からも患者にとっては納得していただけるようになった。アメリカ・ヨーロッパ・韓国などの先進国はメタルフリーとなり大部分をセラミックで修復し、ほぼ天然歯と見分けがつかない程度の回復を認める。我々、日本の歯科医師も、より良い治療を求め、日々、新しい技術を会得するため、日本国内、海外へも勉強に出向き、日々、切磋琢磨しており私もその一人である。
 我々、一般歯科を担う開業医において、その技術獲得に費やした時間と経済的にも多大なものと思われるが、果たして費用対効果の論点から言えばどうなのであろうか。
 日本は国民皆保険制度に守られ、一部保険を使用すれば機能回復における治療は大部分まかなる事ができる。その半面、国民の歯科保健意識は例えばアメリカ・韓国・シンガポール・スウェーデンなどの国々と比較しても低水準にある。一本の虫歯治療にかかるコストを例にとり先進国との治療費用の顕著な差異を問題視することが重要ではないでしょうか。
今一度、我々、歯科医師は日々、患者への治療に携わる日々に問いかけ、日本の歯科医療の発展のためにすべき問題点を論じたいと思う。
シンポジウムII-1
演題 小帯(上唇・舌)手術
演者 井川 加織(宮崎大学医学部 顎顔面口腔外科学分野 病棟医長)
  小児の小帯(上唇・舌)の切除術、伸展術は比較的多く行われている口腔外科手術の一つである。小帯異常の治療には口腔外科医のみならず矯正歯科専門医、言語療法士と密接な連携をとりながら言語のトレーニングやリハビリテーションが行われる意義は大きい。上唇小帯、舌小帯の異常により、口腔の機能障害がある場合、手術により伸展をはかる。小帯の手術は単純切除、V-Y法あるいはZ-Plastyなどがあり、適宜、縫合を行う。また、近年はレーザーによる小帯の伸展術も行われている。小帯異常の治療には口腔外科医のみならず矯正歯科専門医、言語療法士と密接な連携をとりながら言語のトレーニングやリハビリテーションが行われる意義は大きい。
当科にて行われている小帯手術の簡単な基本手技と実際について提示したい。
シンポジウムII-2
演題 粘液のう胞への対応
演者 管野 貴浩(香川県立中央病院 歯科口腔外科医長)
  粘液のう胞は、歯科・口腔外科領域に生じる軟組織のう胞の大部分を占め、日常臨床上多く経験する。口腔粘膜に広く部分布する小唾液腺の流出機能障害により生じる粘膜下の粘液貯留現象を言う。透明感のある紫青色、深在性のものは桃色を呈し境界明瞭な水疱状病変として診断は容易であることが多い。明らかな外傷や機械刺激による小唾液腺導管損傷に起因するものを除き、原因や成り立ちが不明なことが多く、10歳未満の小児や20代、30代に多く見られる。治療は基本的に切除であるが、再発も約数%〜10%前後と報告され、原因と考えられる小唾液腺を同時に切除することが重要とされる。
本シンポジウムでは、粘液のう胞の切除について、小生の小児患者の治療ビデオを通して、粘液のう胞の基本事項、診断、治療について解説をさせて頂き、会員の先生方の臨床の一助となれば幸いである。なお当科で治療を行った、2007年4月から2010年3月までの3年間の症例内訳は以下の通りであった。全141症例、男性68例(48.2%)、女性73例(51.8%)。年齢は0−9歳:34例(24.1%)、10歳代:26例(18.4%)、20歳代:27例(19.1%)、30歳代:21例(14.9%)、40歳代:10例(7.1%)、50歳代:7例(5.0%)、60歳代:8例(5.7%)、70歳代:6例(4.3%)、80歳代:2例(1.4%)。発生部位は、上唇:10症例(7.1%)、下唇:102例(72.3%)、舌:12例(8.5%)、口底:4例(2.8%)、頬粘膜:11例(7.8%)、口蓋:2例(1.4%)であった。局麻下にて関連小唾液腺を含めた切除を行った。再発は4例(2.8%)に認めた。
シンポジウムII-3
演題 ガマ腫への対応
演者 山下 佳雄(佐賀大学医学部歯科口腔外科学講座准教授)
   ガマ腫は舌下腺に由来する粘液嚢胞で、その多くは口底部にやや青みを帯びた透明感のある片側性の腫瘤として認められる(舌下型)。この嚢胞が顎舌骨筋を越えて顎下部、頤部、頸部にまで腫脹をきたすこともある(顎下型)。
治療法としては一般的に薬物療法や外科療法があげられる。薬物療法は薬物による嚢胞壁の破壊を期待する治療法で、ステロイド(ケナコルトなど)やOK-432(ピシバニール )などの局所注入療法が一般的である。外科療法と比較して低侵襲であるが、一方で一定の治療効果が得られないことや保険適応外であることが問題である。またOK-432の局注後には発熱、腫脹による嚥下・呼吸障害も報告されている。外科療法としては開窓術、嚢胞全摘術、開窓術あるいは嚢胞摘出術と舌下腺摘出術との併用などが行われている。しかしガマ腫の成因を考えると再発を繰り返す症例には舌下腺摘出術の併用が根治的な治療といえる。
シンポジウムII-4
演題 過剰歯(埋状歯含む)の抜歯
演者 堀之内康文(公立学校共済組合九州中央病院 歯科口腔外科部長)
   過剰歯(埋伏歯)の抜歯は、小児の観血的処置の中では最も多いとされている。小児の外科的処置を局麻下に行う場合は、低年齢児であっても理解、協力を得る必要があり、また近接した永久歯の歯胚や歯根を損傷しないよう慎重な操作が必要である。
 埋伏位置の診断は、デンタル、咬合法、パントモ撮影等でも可能であるが、隣在歯や解剖学的構造(鼻腔、上顎洞、下顎管など)との立体的位置関係、牽引や開窓による萌出誘導の可能性等の検討が必要な場合はCT撮影を行っている。
 当科では過剰歯(埋伏歯)を含め、抜歯は可能な限り局麻下に行うことにしており、これまで小児の過剰歯(埋伏歯)抜歯も全例局麻下で行ってきた。その際当科での処置が歯科治療に対するトラウマにならないことを最大の注意点としている。
 過去数年間の統計をもとに、当科での小児の過剰歯(埋伏歯)抜歯の実態(協力の得かた、抜歯時期、局麻、歯肉弁挙上の工夫、等)について述べる。
シンポジウムII-5
演題 小児の含歯性嚢胞に対する処置
演者 橋本 敏昭(福岡歯科大学臨床教授)
   含歯性嚢胞は小児における歯原性嚢胞の中でも比較的頻度が高く、その多くは片側性であり、両側性に生じることはきわめてまれである。含歯性嚢胞の原因としては埋伏歯、歯胚に働く圧迫、歯胚の外傷、乳歯の根尖性歯周炎、個人的素因などによりエナメル器が嚢胞化することによって生ずるとされている。
小児の含歯性嚢胞に対する処置としては開窓法と摘出法とがあるが、小児では開窓法をできるだけ選択し、原因歯は摘出せずにその動態を定期的に観察し萌出誘導を行うことが多い。小児では顎の発育等も考慮し外科的侵襲は最小限に行うことが望ましい。開窓後に自然萌出が望めない場合は牽引を行うこともある。
今回はいくつかの症例を提示しながら小児の含歯性嚢胞に対する処置について考えてみたいと思う。